「黒部を旅して」
あれから何年経ったのだろう?
大学の夏合宿で、初めて黒部峡谷を旅した時の鄙びた温泉地と木箱のようなトロッコが、思い出の中に浮かんできた。
迫りくる山々、急峻な流れ、朝露を含んだ草木は緑鮮やかに青空に映えている。変化に富んだ自然と、鉄橋や発電所の人工的な構造美がダイナミックな景観を形成している。黒部峡谷の見どころだ。
北アルプスの豊かな雪解水が、県内河川での水力発電を可能にし、活力ある産業が、富山県に原発を必要としなかった。自然と民力の賜物と言えるだろう。3.11大震災以来観光客が激減しているという。放射能問題で外人観光客は来ず、日本人は被災地に配慮して委縮している。経済活動を活発にさせなくては復興は覚束ないのに・・。などともの思いに耽っていると、「あそこに葵額アジサイが!あれは、ぎぼしよ!」女学生のような楽しい語らいが聞こえてくる。トンネル内の涼風も頬に心地よい。欅平では人喰岩の辺りを散策し、暫し足湯を楽しんだ。
昼食は豪農の館を移築した烏帽子山荘。どっしりとした門構えをくぐり、打ち水された石段を登り玄関へ。山を背にしたたたずまいや室札は、民芸の趣向を極めて、おもてなしの心が伝わってくる。被災地に想いを馳せ、今日の幸せに感謝しつつ美味礼讃すれば、心うちとけ話も弾む。 |